■祭りのあと■


「大佐、もっかい勝負だ!」
軍の大佐で「焔」の二つ名を持つ国家錬金術師でもあるロイ・マスタングは久々の非番の日だというのに自宅の前で元気一杯に叫ぶ豆・・・・・もとい、最年少の国家錬金術師で「鋼」の二つ名を持つエドワード・エルリックに捕まっていた。
やれやれと鋼の錬金術師を見下ろすと、ロイは前髪をかき上げた。
「いきなり勝負とは、一体なんなのだ、鋼の。」
「なんだもくそもあるかっっ!!」
今日のエドはやけにテンションが高い。
実はその理由は察してはいるのだが。

なにやら最近軍の中で「ロイ・マスタング大佐とエドワード・エルリックの二人が戦ったらどっちが強いか?」という愚にもつかない話が囁かれていた。
囁かれるだけなら良かったのだが、いささか馬鹿馬鹿しい事にその夢の対戦カードが実現してしまった。
結果は戦術に長けて実戦経験も豊富なロイの圧勝だったが、この鋼のおチビさんとしては結果に納得がいかない。
「大佐をボコれる」とやる気満々だっただけに余計気に入らないのかも知れない。
どっちにしろ結局、国家錬金術師とはいえこういう事でむきになる辺り、エドもまだまだ子供ということなのかも知れないが、エドとしては負けっぱなしで引き下がる訳にはいかなかった。
まだ体のあちこちにその時の勝負で受けた火傷の痕が残っていたが、エドとしてはもう一度大佐と勝負するまで引き下がる気は無かった。


「じゃんけんだって三回勝負じゃねーか、一回でどっちが強いかなんて決められるかよ!」
・・・・・・・それはどういう理屈だ。
しかしこうやってむきになって突っかかって来るのが可愛いと言えば可愛い。
エドを見下ろしながらロイは口元がつい緩みそうになるのを堪えるのにいささか苦労しながら言った。
「しかし我々が戦う為にまた練兵場は使うわけにはいかないだろう。前の時でみんな懲りているはずだぞ。」
懲りてないのはお前くらいのようだがな鋼の、と、心の中で付け加える。
「喧嘩するのに場所なんかどこだっていいだろ!!」
エドは元気に言い返した。喧嘩と言い切ってしまうと身もフタも無い気もするが。
だがこの一言が自分にとって命取りになるとは、この時エドに予測することは不可能だった。


「そうか、場所はどこでもいいのか。」
何かを思いついたのか、ロイがにやりと笑った。
こういう笑い方をする時はろくなこと考えてない時だ、と一瞬エドは思ったがあえて口にはしなかった。
「ならば場所はこちらで指定してもいいかな?」
「おう!」
やっとやる気になったかと、エドが思った時、突然エドの体は横抱きに抱き上げられた。


「ななななな・・・・・・!!!」
突然の事にエドが驚いていると、ロイに耳元で囁かれる。
「場所はどこでもいいんだろう?鋼の。」
ならば私の寝室のベッドの上などどうだ?と言われてエドは事態を悟った。
「ちょ、ちょっと待て、そりゃなんの勝負だ!!」
ロイの腕の中でじたばたと暴れるがエドの小さな体ではがっちりと捕らえられた腕から逃れるのは難しそうだった。
「場所はこちらで指定すると言っただろう?」
今度は手加減無しで熱くしてやるから覚悟しろと言われて、エドの背中には逆に冷たいものが走った。


大佐の所に喧嘩をふっかけに行くなんて言ったら絶対アルに呆れられて止められると思ったから、アルには黙って来たのだが、今はそれを心底後悔した。
「大佐、離せ、離せええええええ!!!」
エドの叫び声が通りに響いたが、玄関のドアが閉められると通りはすぐに静かになった。


さて、鋼の錬金術師エドワード・エルリックの運命がどうなったかは、この先は当事者二人のみが知ることである。


END

2004/03/21/UP

ロイエドです。元ネタは言うまでも無く3巻の外伝「軍部祭り」ですね。
いや、あまりにも大佐の一方的勝利だったんでエドがそれで引き下がるかな〜?と思ったんですが、余計えらいことになってしまったようです(笑)
しかしエドをお姫様抱っこしてる大佐ですが、エドって機会鎧のせいで体格の割に重いと思うんですが、大丈夫なんでしょうか??
まあでもエンヴィがエドを担ぎ上げてたこともあったし、まあベッドに運ぶくらい大丈夫でしょうかね?(笑)


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